MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの狙いとは?!ヘヤジンインタビュー『ムジ・ネット株式会社 一級建築士 豊田輝人氏』

豊田輝人氏は、「無印良品の家」シリーズや「MUJI VILLAGE」も手がけた無印良品の建築家。

今回のインタビューテーマとなった、「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」は、その名の通りUR賃貸住宅(旧公団住宅)の団地を無印良品がリノベーションするプロジェクトだ。「懐かしさ」のイメージが先行する団地に対して、無印良品がどのような意図を持ってリノベーションを行なったのか、今回本プロジェクトの設計を担当した豊田氏に話を伺った。

話を聞いていくと、このリノベーションがただの一回きりの建築業務なのではない事がわかった。無印良品が本プロジェクトのさらに先に見ているビジョン、そして「人々の暮らし」に対して常に持っている並々ならぬ使命感、というものがジワジワと熱く伝わってきた。そしてそれは、本サイトHEYAZINEの持つコンセプトとも共鳴するものだった。

時代にあった暮らしの選び方

――「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」について、まずプロジェクトのストーリーをお聞かせ頂けますか?

まず初めに、我々がこのプロジェクトの主題として設定したのは、人々の暮らし方に楽しい選択肢を増やす、ということでした。現代は暮らしのスタイルが多様化している時代です。それに対して、今あるマンションなどの住宅施設は、そのほとんどが画一的な間取りとなっていて、どちらかというと住宅の方が人々の暮らし方を決めている部分が大きいといえます。
つまり、住む人が決められた間取りに対して、自分の暮らし方をある程度合わせていかなければならない、ということになりますが、それだと今の時代の人々にとっては窮屈に感じます。そのような問題に対して、人々の暮らし方を解放してあげられるような設計が必要なんじゃないか、というのが我々が常に感じている一番の課題でした。

そしてもう1つ、このUR団地自身の課題としてあったのが老齢化でした。これには、設備の老齢化と、住む人々の老齢化がありました。
URさんは全国で76万戸の団地をお持ちですが、国の方針で新築の団地は基本的には作らない方針なので、今ある建物をどのように活かすかということ。そして、現在住んでいる方は高齢化してきていて、平均年齢が60~70歳代の団地もあります。そうすると、新築当初には子供を通じた祭りやサークル活動などの人々の交流の場があったのですが、そのようなコミュニティが体力的に衰えてきて、やがて無くなってしまうという課題がある。
それを防ぐためには、若い人に団地に入ってもらい、世代間交流など団地を活性化させる仕組みづくりをしていく必要がありました。
プロジェクトはその双方の課題を起点にスタートしました。
「MUJI×UR」のコラボレーションとして、お互いの課題を解決するコンセプトを一つ作ってやっていこう、という趣旨でした。

――時代に対する向き合い方が、お互いが持っている課題に共通するポイントだったのですね。

そうです。
そして話を進めていく内に、無印とURさんはお互いのコンセプトがとても相性が良い、ということに気づいたんです。
URさんは、戦後から現代に通じる都市の暮らしの原点を作ってきたといえます。ダイニングキッチンなど、時代に合った暮らしのスタイルを常に最先端で提供してきました。
一方で無印は、1980年代からの企業ですが、暮らしの本質を見つめる、という理念を持ってやってきました。贅沢をすることが大事なのではなく、簡素簡潔で暮らしの本質を良くしていこう、というのが無印の主題でした。

「暮らしの豊かさを見つめている」という点で、無印とURが相性が良いことが分かったので、これは力を合わせればもっと色々な暮らし方の提案を人々にできるのではないか、それならば実際に作ってみよう、ということで、その第一弾として大阪の3エリアの古い団地が選ばれて実際にリノベーションすることになりました。

団地リノベーションのコンセプト:「住人が暮らし方を選べる」設計

――古い団地のリノベーションを行なうに当たって、色々と気を使う部分があるかと思いますが、何か特別に意識されたコンセプトはあったのでしょうか?

家でも家具でも、無印として設計を行なうときに常に持っているコンセプトは、「暮らしの背景を整える」という考え方です。先ほども言ったように、例えば10年、15年と時間が経つ内に人々の暮らし方は変わっていく。それに対して、暮らしの背景となる部屋は変わりません。その背景となる部分を、時代に合わせて整えていくことで、日々の暮らしはずっと魅力的なものになります。

さらに今回は考え方をもう一歩進め、「自分で暮らしを整えられる」=選べるということを主眼に置きました。
それは具体的に言うと、間取り自体はできる限りフリーにしておき、住む人が自分で仕切りを作ったり、収納を沢山作ったり、自分なりの暮らし方を自分自身で作っていけるようなことをさせてあげたい、という考え方でした。
例えば、自転車が好きな人は自転車が置けるスペースが欲しいでしょうし、料理好きな人なら広いキッチンが欲しいと思います。
そのように誰が住んでもいいような、あらゆるタイプの暮らし方を包みこめるような設計を目指して作って行きました。
ただし、広々とした空間があるだけでは、なかなか住みこなすことも難しいと思うので、その空間の「インフィル」を充実させようと考えました。

――「インフィル」とは何ですか?

「インフィル」とは、建築用語で内装や家具を含む「住宅内部の設備」のことを言います。それに対して、「スケルトン」があり、こちらは「骨組み」や「構造体」のことを指します。スケルトンは簡単には変更することはできませんが、インフィルは自由に変更することができます。

URさんは50年でも耐えられるような強度のあるスケルトンを作ってきて、無印は家具などのインフィル作りを得意としてきました。そこで今回のプロジェクトでは、既存の家具商品を使うのではなく、オリジナルのインフィルを作ることにしました。

――具体的には、どのようなインフィルを作ったのですか?

作ったものはいくつかあるのですが、代表的なものは2つです。
一つがこちらのリバーサイドしろきたで使用しているキッチンとダイニングテーブルです。

こちらは幅が1.8mの小さなキッチン台なのですが、それに対して、同じサイズのダイニングテーブルを置きました。テーブルの幅や高さを全く同じにすることで、キッチン台に付け足して使うことができるような作りになっています。デザインも同じなので違和感もありません。これを向かい合わせに付ければ対面キッチンテーブルにもなるし、横面に付ければ大きな作業台としても使えます。料理が好きな人でも、そうでない人でも住むことができるような設計です。

このようなテーブルを、最初から賃貸物件に付いている設定にしたのです。
URさんにとっては、「家具付き」の物件を出すのは何十年ぶりというくらいの画期的な出来事でした。
過去に、家具を置いておくと持って行かれちゃうことなどがあり(笑)、そのようなことはやっていませんでした。
しかし今回の「暮らし方を選べる」というコンセプトに賛同していただいたことで、これが実現しました。

――「団地」というと、一律に間取りが決まっている部屋など、画一的なイメージが強いですが、それをリノベーションとしてただ単に「形を変える」ことを通り越して、「形を変えられる」という暮らし方の可能性を押し広げてしまうような考え方は、我々が持っている団地の印象すらも変えてしまいますね。

そうですね、表面的にキレイにするということではなく、もっと本質的な所にまで踏み込んで、住む人が暮らし方を自分の意志で積極的に変えていけるような作り方をすることが目的でした。

――もう一つの代表的な例はなんですか?

もう一つは、こちらの新千里西町団地で使用したタイプです。
このタイプは、畳を床に敷いています。通常、畳はイグサを使いますが、今回は麻を使ったオリジナルの畳を開発しました。畳を使う生活は「床座の暮らし」といって、寝そべったり、床でゴロゴロするような生活をします。URさんの古い間取りは畳を使用しているものが多いんです。それをリノベーションするに当たって、フローリングにすると工事費が高い、遮音性が弱いなどの難点があります。
麻畳にすれば、古い畳を交換するだけの手間で完了できます。まずこれでコスト面はクリアできます。
また麻は強度があるので遮音性もあり、さらにベッドやソファ、またはキャスター付きの家具を置いても傷みにくいという利点があります。これによって、和風、洋風のどちらの暮らし方もできる、という選択肢を作ることができました。

団地の魅力を活かすこと=「団地の記憶」を残すということ

――そのように選択肢を作る、ということが最初のお話にあった暮らしを解放する、ということに繋がるわけですね。一方で、団地の元々の作りを活用されている部分なども見られますが、これはどのような意図でしょうか。

それは、今回のリノベーションをするに当たり、団地の魅力を活かしたリノベーションをしようと考えたからです。
団地の「古さ」は、建物にとってのネックであると同時に、「ビンテージ」という雰囲気の良さにもつながります。そのような「古さ」を見直し、良い所は残して、必要な部分は改修する、という作業を丁寧に行いました。
この押入れ部分を利用したスペースは、その象徴ともいえます。

普通にリノベーションをする場合、押し入れ等は全て取っ払ってしまいますが、ここではあえてフレームだけ残しました。押入れの形=記憶を残すことが、団地の魅力を残すことにつながると考えました。
また、この形態なら写真の様に部屋の延長とスペースとして広く使うこともできるし、収納が必要な人には押入れやクローゼットとして使えるなど、ここでも暮らし方を選べる選択肢を意識しました。

――このように押入れ部分などを残すのは、関係者の方からは満場一致でOKがでるものなのですか?

いや、これは残す派と残さない派が半々でしたね。だいたい、年齢的に50歳前後の人を境に意見が分かれます(笑)
年齢が上の人ほど、「なんでこんなものを残しているんだ」という意見になります。

――意外とこういうものに馴染みのある人ほどアッサリとしているような(笑)

そうですね、若くて馴染みがない人ほどこういう形が新鮮に感じるのだと思います。
ただ、意見は半々と言いましたが、モノを作る時に100点を取る必要は全くなくて、むしろ反対意見はウェルカムなんです。反対意見が出ても、なにかしらの解決策は必ず見つかるし、本質を追求していれば納得して頂けます。
そういう意味では、コンセプト作りが非常に重要です。今回のリノベーションでは、「暮らし方を選べる」、「団地の魅力を活かす」ということがコンセプトでした。本質となるコンセプトを作り、それを関係者や住人に伝えることで、設計の意図を納得してもらうこと。それを積み重ねていき、より良い暮らしを提供していけるように努力しています。

――団地のイメージとして、「古さ」ばかりに目が行きがちであまり気が付きませんでしたが、昔からある団地ならではの魅力があるものなんですね。

実はURさんの団地はそもそも、住宅としての条件がとても良いものが多いのです。敷地も広く取ってあり、その敷地内で建物どうしの間が離れていて、日射や風通しがよく、暮らしやすい作りになっています。
たしかに現代から見ると、設備などが古い部分もあるのですが、暮らし方の本質的なレベルを意識して見てみると、これほど豊かな暮らしをしやすいスケルトンはなかなかありません。ただ、今まではそれをなかなか上手にアピールできていませんでした。
そこに無印が入ることで、リノベーションで部屋の構造を変えることもできたし、さらに言うとWEBサイトやメールマガジンでURさんの住宅の魅力を具体的に紹介していくことができました。
このように世間に魅力を広めることで、「あっ、あんな家いいな」と感じる人の輪が増え、人々の暮らしが豊かになっていく、というサイクルが生まれることを期待しています。

「豊かな暮らし方は選べる」: 人々の意識を変えていくこと

――そのように「暮らしの背景を整える」というコンセプトを、影響力という面でも発していく、ということも今回のプロジェクトの意図なのでしょうか?

その通りです。
我々は、住む人だけではなく、民間の建築業者の方、住宅オーナーの方の意識も変えていきたい、という思いがあります。
日本は、衣食住の中で衣・食には人々の意識がよく向けられているのですが、「住」に対する意識がまだまだ低いです。ヨーロッパなどでは住宅の借り方や購入の仕方も、教育課程である程度教えられるものですが、日本ではそのような教育もないので、住宅を借りる時や購入するときになって初めて色々と考える。しかし、豊かな暮らしのバックグラウンドとなる知識がないために、結局は不動産屋さんやハウスメーカーが出してくる情報の中から選ぶ、というストーリーになってしまいます。
ですが、本当は人の暮らしというものは、それぞれが違うものであるし、それぞれに最適な「豊かさ」というものがあるはずです。それは、意識をすることで選ぶことも、作ることもできるのです。

そのような暮らしに対する意識の「土壌」の部分を良くしていくことで、そこに根付く人々の考え方が良くなっていけばいいな、と思っています。もっとたくさんの人々が「豊かな暮らし方は選べるんだ」という意識を持つことで、ひいては日本全体の暮らし方が変わっていく、というのが夢なんです。
今回の大阪のURのプロジェクトは、そんな我々の夢の先駆けとして、皆さんにぜひ見て頂きたいと思っています。

――人々が自分の手で豊かな暮らしを選んでいく、というコンセプトはまさにHEYAZINEの姿勢にも通ずるものがあります。
豊田さん、今回は熱いお話をお聞かせ頂き、どうもありがとうございました。

text/Y.Katayama

PROFILE

1976  神奈川県生まれ
1995  東京理科大学工学部建築学科卒業
2001  東京理科大学院建築学修了
2001-2005 組織設計事務所
2005-  ムジ・ネット株式会社