伊藤博文、大隈重信「みずからに厳しく生きてきた人ほど、盆栽にひかれる」

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(kizitora)

世界に知られる日本の伝統文化といえば茶の湯、禅、歌舞伎、浮世絵などが思い浮かびますが、それに加えて海外で熱く支持されているのが、「BONSAI」といわれ、フランスの老舗メゾン、エルメスが盆栽をテーマにバッグのエキシビジョンをしたり、国内でも若者向けに「盆栽カフェ」や、スマホの盆栽育成アプリが登場するなど、スピード化の短気な時代に、なぜか時間も手間もひときわかかる盆栽が注目されています。

↑世の中のスピードは速くなるばかり (Roman Kruglov)

盆栽が中国から日本に伝来したのは平安時代の末頃といわれ、当時は山水画を眺めるように悠久の時を感じながら景色を愛でるという、かなり高尚な貴族の楽しみでした。

徳川家光や、大隈重信、犬養毅、吉田茂、岩崎弥之助、実業家の郷誠之助、そして、東武グループを築いた根津嘉一郎など、盆栽に魅せられた政財界人をあげればキリがありませんが、「みずからに厳しく、命がけで生きてきた人ほど、盆栽に惹きつけられるもの」と盆栽好きの人たちは述べます。

↑吉田茂:自分に厳しい人ほど、盆栽に魅了される (jyoseikan)

日本一の松と名高い盆栽、「日暮し」の価値は1億円以上といわれますが、そのかつての所有者でもあり、日本で初めてシュレッダーを発明・開発した高木禮二氏は、著書「盆栽が教えてくれた」の中で次のように述べています。

「継続すること、持続することの大切さを盆栽が教えてくれます。それは、仕事においても、何事においても当てはまることです。継続こそが力を、成果を生み出します。」

室町時代から生き抜いてきた樹齢450年の盆栽が、「なんだ、おまえ。若造のくせに生意気だな」、「もっとしっかりしろ」と高木氏を毎日のように叱咤激励してくれたそうですが、何百年もの歳月を生き抜いてきた盆栽からのメッセージだからこそ、重みがあるように感じるのかもしれません。

↑最高級のモノになると、盆栽の価値は1億円以上 (Norio NAKAYAMA)

世界の長寿企業クラブ「エノキアン協会」は、創業200年以上などの条件を満たした44社が加盟しており、平均社歴321年の経営者たちはリーマンショックを経験しても、「こんなことで大騒ぎすることはない。この手の不況はいつの時代にもあるもの」と平然と構えていたといい、300年続く企業にとってみれば「100年に一度の危機」は3度も経験済みで、持っている物差しのメモリの単位が少し違うのかもしれません。

↑「100年に一度の危機」など、何度も経験済み (Tim Kwee)

90%が失敗するともいわれるベンチャー企業ですが、情報を管理するアプリを提供しているエバーノート社は、「100年続くスタートアップ」を目指しており、そのためには商品よりも企業文化の方が、何倍も重要だと述べています。

国税庁の統計では、100年以上続く日本の同族企業は3万社を超えており(ヨーロッパの5倍)、日本経済において資本金1億円未満の企業の97%が同族企業という、世界でも類を見ない同族経営の多さと長寿企業の関係性は明らかですが、ファミリービジネスという社風を保ちやすい土壌が、長生きの企業を育んでいるのかもしれません。

↑長く続く企業は、商品よりも企業文化 (JD Lasica)

創業5年目で、はやくも成功企業の仲間入りを果たしたザッポス社のCEO、トニー・シェイは、その成功要因のひとつに同社の「社風」を挙げており、「当社が長期的に維持できる競争優位はこれくらいしかない。それ以外はそのうち真似される」と著書『ザッポス伝説』で打ち明けています。

「ザッポスでは、採用選考用にあらゆる質問や試験を慎重に作成している。例えば志願書に、"自分の幸福度は10段階評価でどのくらいだと思うか"といった質問がある。自己評価が7未満なら有無を言わさず、書類審査で落とす。悲観主義的な人間は、この会社の楽観的な空気や明るい社風に馴染めないからだ。」

↑「社風」ぐらいしか長期的に競争力を保てるものはない (Robert Scoble)

明るい社風という、目に見えないものが会社を強く長生きさせるという考え方は、会社経営をした人でなければ、すっと胸に入ってくるものではありませんが、これを個人に置き換えてみると、イリノイ大学心理学部名誉教授のエド・ディーナー博士が、「幸福感が強いと9.4年もの長生きにつながる」と述べているように、個人も企業も長生きする秘訣はあまり変わりません。

日本盆栽協会会長の高木氏も、仕事で苦しかった時代を乗り越えられたのも、盆栽が毎日くれた幸福感のおかげだったと回想しています。

「盆栽を見るという楽しみがあるから、起き抜けでぼんやりしている意識を奮い立たせることができます。そして、"盆栽に負けないよう、自分も早く立派になるぞ、今日は絶対にいい日にするぞ"と心の中でくり返すのです。」

↑企業も個人も長生きする秘訣は変わらない (emdot)

1億円もする木を育てるなど、初心者であれば枯らしてしまったらと腰が引けて、水をやることすらストレスになりそうですが、国を動かしてきた政財界のトップたちは、誰にも話すことのできない秘密や悩みを無口な大先輩に相談し、叱咤激励され、少しずつ成長する姿を見てもらえる幸福感を、活力に変えてきたのでしょう。

盆栽が生長するために太陽や水が必要なように、人も何かを長く続けていくためには、毎日の幸福感という土壌がないと枯れてしまうのかもしれません。

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児玉 はなえ (Leading&Co.)
商社やラグジュアリーブランドでのマーケティング、デジタルコンテンツ担当を経てフリーライターに。
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