​人工知能の可能性「なぜグーグルやフェイスブックなどの大企業がたった40人の企業の獲得に必死になるのか。」

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(paz.ca)

2016年の6月の完成予定の「Musio」は、人工知能を扱うアメリカのAKA社が製作したロボットで、これまでのSiriなどの質問パターンによって定型的な受け答えをするものとは違い、質問に答えるだけでなく逆に聞いてきたり、聞いた内容を覚え、今後の会話に絡めてくるといった、まるで自我を持っているかのように機能し、会話を重ねるほどに成長していきます。

こうした「Musio」の機能は、人工知能の中でも、「ディープラーニング」という、より人に近い能力をもったデータ処理能力が発展したことで実現した一例でもあります。

↑人工知能「人間と会話すればするほど賢くなっていく。」(Michael Cordedda)

これまでの人工知能は、データを分析することはできても、どのように特徴を識別すればよいのかは人間が入力しなければならなかったために、知能として人間を越えることができないという限界がありました。

しかし、その壁をディープラーニングという方法で越えることができるようになった人工知能は、人間と同じように学習して情報を選択するルールを自分で増やすことができるようになりました。

カリフォルニア大学バークリー校でコンピュターサイエンスを研究するダレル教授は、「5年以内に人工知能が市場に出回るだろう」と述べており、専門家の間で、2045年には人工知能が人の能力を超えるという予測も現実視されてきています。

↑ディープ・ラーニングは人間のように世界を学んでいく。(Temari 09)

人工知能による情報戦線には、多くの企業が乗り出しており、テクノロジー市場の調査に特化したBCCリサーチの2014年の調べによれば、人工知能を使った機械やコンピューターシステムの世界市場は2019年までに約20%拡大し、153億ドル(約1兆8200億円)規模になると言われています。

シリコンバレーの企業を先頭に、多くの企業がディープ・ラーニングの研究開発に多額の投資を始め、人工知能の研究開発に欠かせない優秀な人材を求めて、ベンチャー企業の買収も活発化し、たった40人程度の企業をグーグルとフェイスブックが取り合うなど、人材確保の動きがどんどん激しくなってきています。

テクノロジー市場は拡大し、ディープラーニングの研究競争は、日々激化している。(ManoelNetto)

人工知能の研究開発が進んでいるアメリカの最先端企業の中でも、フェイスブックの人工知能は2014年の時点で、顔認識の精度が97%とほぼ人間と同じ程度の能力を持つまでに成長しています。

グーグルは人工知能によって、グーグルイメージでの検索の精度を上げていますが、さらに、読み取った写真の特徴を基にして絵を描く能力も発達させており、たとえば、「鳥のように見える雲があったら、その雲をもっと鳥のように見せることができる」と説明しています

マイクロソフトは、リアルタイムで通訳ができるシステム開発の分野も進めていて、それをインターネット電話『Skype』に導入することで、近い将来、言語の違う人同士が、それぞれの言葉でコミュニケーションをとることが可能になるかもしれません。

↑グーグル・イメージは、読み取ったイメージを元に絵を描く。(Carlos Luna)

これまでは、アメリカのシリコンバレーが人工知能を含めたIT業界をリードしてきましたが、2010年からモントリオール大学のベルグストラ氏が中心となって開発している「テアノ」や、2014年にバークリー大学のジア氏が開発した「カッフェ」などのソフトウェアによって、これまでは大企業のみしか参加できなかった人工知能の研究が、今後は誰でも行えるようになるため、世界規模の競争がさらに激しくなることも予想されます。

たとえば、フランスで2007年に創業されたYseopは、複数の言語で出された質問を理解し、回答も複数の言語で書き上げることができる人工知能を開発しており、すでに複数のグローバル企業がカスタマーサポートにこのシステムを活用しています。

↑大企業だけではなく、誰でも人工知能に取り組める環境が整い始めた。(hackNY.org)

中国の検索エンジン「百度」を運営する百度公司も、2014年にディープ・ラーニング研究所を立ち上げましたが、「人工知能は人間を超えるか」の著者である松尾豊氏は、データをたくさん持っている企業ほど「よい特徴表現」が集まることで、より高いレベルのディープ・ラーニングの技術を手に入れることが可能になり、今後は人工知能の技術が、情報化社会における企業の命運を分けると次のように述べています。

「少数のプレイヤーが市場を席巻することになる。パソコン時代にOSをマイクロソフトに、CPUをインテルに握られて、日本のメーカーが苦しんだように、人工知能の分野でも、同じことが起きかねない。そして今回の話は、ほぼすべての産業領域に関係するという意味でより深刻であり、いったん差がつくと逆転するのはきわめて困難だ。」

↑世界中が人口知能の開発に乗り出す。一度差がつくと逆転が難しい。(NVIDIA Corporation)

グーグルで働いていたアンドリュー准教授がより良いリサーチベースを求めてグーグルから中国の企業「百度」に移ったように、アメリカに集まっていた有能な研究者たちも、自分の求める研究環境を探して移動をはじめています。

日本がこの世界的競争に参画するのに「待った」をかけている余裕はなく、研究環境を整えるために積極的に投資をし、データを持っている企業を巻き込んで国内外の優秀な研究者を呼び込んで世界を舞台にチャレンジさせることができなければ、日本は経済の主要国として居続けることはできないのではないでしょうか。

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関 希実子 (Leading&Co.)
「No」と言えない日本人代表。多民族・多文化都市シドニーに移住したことをきっかけに、イージーな価値観を勉強中。
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