ロンドンに急増する野生動物と共存するか、それとも絶滅に追い込むか

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(Marion Wacker)

イギリス生まれの童話「ピーターラビット」の中で嫌われモノとして描かれているキツネが、現在ロンドンで本物の「害獣」になりつつあります。

今や1万匹にまで増えたと言われるロンドン市内の野生のキツネは、庭を荒らし、ゴミをあさり、ときにはペットや人を襲うようになって、自身の飼い猫がキツネに襲われたボリス・ジョンソン市長が、「都会のキツネ狩りを支持します」とツイートし、物議を醸す事態にもなりました。


↑ロンドンに急増する野生の狐 (Jessica C)

森林伐採や都市開発で緑が失われ、本来の住み家を追われてしまった動物たちは、温暖化の影響から寒さで死んでしまうリスクが激減し、くわえて宿敵であるハンターが減ったことや、生態系を乱す外来種がやってきたことなどのさまざまな要因から、世界のあちこちでその数を増やし、都会への進出を始めており、ハイドパーク2.5個分の緑を毎年失っているロンドンでは、都会化したキツネやハヤブサ、そしてシカなどの野生動物たちとどう共存していくか、市民はかつてない難問に直面しています。

↑人間の身勝手さが狐を都会に呼び寄せている (GanMed64)

常識的に考えれば、都市は人間向けにデザインされているため、ペット以外の動物が生き延びるためには、不都合だらけのように思えますが、意外にも、動物が生きていくために必要な4つの条件、「食料、水、隠れ場所、空間」が都会にはそろっており、慣れない環境にうまく適応しようと動物たちは、さまざまな「進化」を遂げていました。

天敵のいないロンドンの高層ビル群という理想的な住み家を見つけたハヤブサは、イギリス各地に生息地を広げる勢いで増えていますが、そもそも暮らしていた山の生活では決して行わなかった、人工照明を利用した「夜のハンティング」を行うことで、決定的に勝ち組になったと考えられており、生態学者のデヴィッド・グッド氏は、「鳥が新しい環境を認識し、徐々にシフトしていったのは、まさにダーウィンの進化」と述べています

↑急激に変わる環境に、自分たちのスタイルも変えていく。まさにダーウィンの進化論 (BrigadierChastityCrispbread)

生物の進化は、何百年という長いスパンでゆっくりと起こるように思われますが、20世紀半ば、ハドソン川に垂れ流された何千トンという有毒な工場廃液は、わずか60年の間に99%のタラを変異させ、有害物質を細胞へ侵入させないよう、防御システムが進化していたことが明らかになりました

また、ミネソタ大学の研究で、都会のネズミの脳は、田舎暮らしのネズミと比べて6%も大きく、多様で複雑な都市でのサバイバル生活がネズミの認識力をアップさせたことが明らかになりましたが、別の研究で、ニューヨークに暮らすネズミの遺伝子をスクリーニングしたところ、病気や汚染など、都市特有の危険に抵抗するため、30以上の遺伝子情報が進化していることが分かっています。

↑生体を変化させなければ、動物は都会で生き残っていけない (Jean-Etienne)

アメリカ中部にもともと生息していたイヌ科のコヨーテは、天敵のオオカミがいなくなったこともあり、この70年でどんどん住み家を広げていますが、その適応能力は非常に高く、シカゴのコヨーテは、交通量の多い道路も難なく渡ることを覚え、繁華街でも決して人目につかない場所に巣穴をつくると言われています。

さらに都会に住むコヨーテの研究によれば、人間や車などとの接触を避けるために、夜行性へとシフトしていることが分かっており、ハヤブサやネズミと同様に、コヨーテも新しい環境に合わせて生体を変化させていることが分かります。

↑人間の目を上手く避けながら都会で暮らすコヨーテ (Daniel X. O'Neil)

コヨーテは人やペットを襲うことでも知られ、イリノイ州クック郡の調査によると、過去20年間でカリフォルニアをはじめ、アメリカ各地で159人がコヨーテに襲われており、原因を調査していくと、37%が「捕食目的」、22%が「エサかどうか調べる目的」で、人やペットを襲ったことがわかり、庭先でさえずる小鳥たちのように、必ずしも友好的ではないことが明らかになっています。

いざ出会ってしまったら、絶対に走って逃げたりはせず、大声を出しながら、ものを投げつけたり、大きな音をたて、腕を大きく振って威嚇することが有効なようですが、こうした最悪の事態を招かないためにも、危険な野生生物には地域ぐるみで対策をとるべきだ、と専門家たちは声をそろえます。

↑野生でも都会でも食料を調達しなければならないことには変わりはない (Brian Byrne)

コヨーテやイノシシ、そしてクマなどがバーベキューの招かれざるゲストとしてやって来るかもしれないアリゾナ州では、野生生物と共存するための具体策を紹介したVTRを制作し、「人間は自然の一部であり、分けることはできない。我慢すること、共存することを学ばなければならない。」として、とにかく重要なのは「食料を与えない」ことで、隣人たちと協力しながら、「エサ場にならない居心地の悪い場所」だと動物たちにわからせることが重要だと繰り返しています。


↑野生の動物と共存して暮らすことも本気で考えていかなければならない (trevoleiler)

地球が生まれて46億年の間に、多くの生き物が生まれて絶滅していきましたが、種の絶滅スピードはどんどん加速し、過去6千万年の間の絶滅スピードの1万倍にまで及んでいると言われているように、現在も約2万種の生物が絶滅の危機に瀕しています。

欧米では、「被害が出たから駆除」という一本やりな対処療法から、人間、野生生物、土地の三者のバランスを調整して管理していく「ワイルドライフマネジメント」という取り組みも広がっており、生物学者のマーク・ゴダール教授は、「困難なアプローチではあるが、科学者や都市開発者、生息環境管理者たちとのコラボレーションが必要だ。」と述べ、もはや地球環境をまるごとマネジメントしなくてはならない段階に来てしまったようです。

私たち人間も動物であり、自然に育まれて進化を続けながら、残念なことにたくさんの仲間を自らの手によって滅ぼしてしまいました。絶滅したドードーやタスマニアンタイガーたちをよみがえらせることはできませんが、知恵と技術を総動員して、地球上に生きている生物たちと共存していく方法を見つけることこそ、私たちが真っ先に取り組むべき宿題なのかもしれません。

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児玉 はなえ (Leading&Co.)
商社やラグジュアリーブランドでのマーケティング、デジタルコンテンツ担当を経てフリーライターに。
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