学力世界一のフィンランドの教育は地理、歴史、経済などすべてを混ぜ合わせて行われる。

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(Maria Morri)

バルカン半島に位置するフィンランドは、日本から九州を取ったくらいの大きさで、人口は約500万という小さな国にもかかわらず、世界ランキングで何度も1位に輝くその教育レベルの高さによって、注目を集めています。

経済協力開発機構が2000年から3年ごとに行うようになった国際的な学習到達度調査(PISA)では、32か国(現在は65か国)の15歳児に対して、読解力、数学、そして科学の学習到達度を測るためにテストが行われますが、そこでフィンランドが3年連続総合1位という結果を残したことで、世界中の教育関係者の関心がフィンランドに集まるようになりました。

↑3年連続で、学力世界一のフィンランド(whereisemil)

一方、日本は初回こそ数学で1位、科学で2位と好成績でしたが、読解力では8位と順位に大きく溝を開けてしまい、その後の調査では3分野すべての順位を落とし、2000年から実施されていたゆとり教育を見直すきっかけとなりました

日本はゆとり教育から離れ、週あたりの授業数を増やし、勉学により力を入れることで競争力をあげようと躍起になっていますが、好成績を修め続けているフィンランドの学校教育は、日本がゆとり教育だった時よりも一週間あたり約2時間も少ないといいます。

しかも、フィンランドには私立校がなく、特別な才能を持った子ども以外は地元の公立校に通い、更に日本の子どもたちの多くが放課後学習塾へ通うことを考えれば、やみくもに勉強時間が多ければ学力が高くなるという図式は成り立ちません。(1)

↑とにかく授業の量を増やす日本と、本当の質を重視するフィンランド(ajari)

前述のPISAの結果だけではなく、フィンランドの教育の歴史を見てみると、その学力の高さは、何よりも言語力や読解力に力を注ぎ続けてきたことによって培われてきたものともいえるかもしれません。

フィンランドは歴史的に長い間、ロシアやスウェーデンなど隣国の統治下にあったため、自分たちのアイデンティティを守るために、母語を大切にし、国語の教育に力を入れており、フィンランドの小学校では1~2年生が一週間で勉強する19時間のうち、7時間がフィンランド語(国語)を学ぶ時間に当てられているそうで、子供の頃から徹底的に読み書きを教わります。

↑自国のアイデンティティを守るためには、まずは国語 (Hans Splinter)

一方で、フィンランド語は他の北欧の言語とあまりにも異質のため、隣国とコミュニケーションするために外国語も学ぶ必要性が高く、小学校3年生からは英語が必須科目になる他、希望者には第三外国語の学習も取り入れていきます。(1)(2)

そのように言語や読解に力を入れるフィンランドの教育の基本は「読書」にあると考えられており、今年の秋からは大統領夫妻自らが後援者となって「ブック・イヤー」と称し、読書を習慣付けるプロジェクトを推し進めています。

↑「読むこと」がその人の人格を作る(The Real Estreya)

もともとフィンランドは世界の中でも読書を趣味とする国民が多く、例えば人口56万人の都市ヘルシンキには38もの図書館があり、図書館の利用率は世界一と言われています。フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領は、「古くからの読書は、フィンランド文化の軸となるもの」という教えを国民と確かめ合うべく、国民に向けてこんなメッセージを送っています。(1)(2)

「国民全員、特に子どもたちにもっと本を読ませて、あるいは読んであげて、彼ら自身の人生を豊かにしたいと思う。読書を行うことは、物事を考えて想像し、心で感じ取ること。それに読書はそもそも楽しいものである。」

また読書の大切さに関して、明治大学文学部の斎藤孝教授も、著書「読書力」の中で次のように述べています。

「教育の高さの表れの一つが、読書力だ。平均的な読書力の高さが、日本の情報処理能力や向学心の高さを対外的にも示してきた。しかし、現実的には、読書力は低下してきている。」(3)

↑教育の高さの表れが読書量

そして、読書は間違いなく人生を豊かにする(amanda tipton)

さらにフィンランドでは、読解力と小学校で徹底的に鍛えられた言語力をベースに、「フェノメノン・ティーチング(phenomenon teaching」と呼ばれる教育方法を中学校以降の高学年の教育で取り入れると発表されました

この教育方法の特徴は、教科に分けずに複合的な思考を促すもので、例えば、「EUについて」というテーマであれば、生徒たちはまず地図を前におき、地理、歴史、経済、そして政治といったEUについての知識をフランス語で学習していきます。

↑複合的な思考を持つために、様々な教科を混ぜあわせて勉強する(Dimitar Nikolov)

このようにして高い読解力を持ったフィンランドの人々は、非常に柔軟にどんな分野でもチャレンジしていけるということは、フィンランドのトップ企業の変遷からも実証されています。

一大企業ノキアは、かつてパルプ工場からスタートしましたが、ゴム、ロボティクスから化学、さらに家電や通信と事業を時代の流れに合わせて切り替え、その形を変えながら成長するさまは、アメーバのようだとも言われています。

米アップルのiPhoneの発売によりスマートフォンの時代に移行すると、2013年には携帯部門をマイクロソフトに売却し、次世代のマーケットを見極め、スマホゲームの分野などへと分裂して、新たなチャレンジに沸いています。

↑ノキア「時代を上手く見極めるアメーバ企業」(Wired Photostream)

元ノキア社員によるスタートアップ企業はおよそ1000社にも上りますが、これらのスタートアップには、ノキアが資金を拠出して産業を後押ししており、また、ノキア自身は売上高の9割を占める通信インフラ部門で事業を盛り返し始めています。日本の高速通信の携帯向け基地局で、すでに首位に立っているほか、来年初めに仏通信大手の買収が完了すれば、無線通信機器の世界シェアは25%前後となり、スウェーデンのエリクソンなどと首位を競う位置に立ちます。

そして、将来の自動運転をにらんだ車載向けの地図事業、R&D(研究開発)部門が持つ膨大な特許と最先端テクノロジーを活かし、ビッグデータ時代のIT企業としても生き残りを賭けています。(4)

↑ノキアから生まれたスタートアップは1000社以上 (Heisenberg Media)

日本でも、明治時代、日本を訪れたロシア人革命家メーチニコフは「回想の明治維新」の中で、当時のロシアや西欧のラテン系諸国に比べて、日本人の識字率は高く、人力車夫や茶屋で見かける娘などが暇を見つけて本を読んでいたと語っていますし、また、江戸時代から明治へかけては、識字率が高かっただけではなく、読書の質も高く、福沢諭吉の「学問のすすめ」が当時のベストセラーだったそうです。(3)(5)

このような世界最高レベルの言語力と読解力が、戦後の日本の復興の裏にあったことは事実で、当時のような言葉の力を取り戻すことは、自分をレベルアップさせるだけではなく、これからの日本もレベルアップさせるのではないでしょうか。

参考図書:

(1)「フィンランドの教育力―なぜ、PISAで学力世界一になったのか」リッカ・パッカラ著 p69 p74 p76

(2)「フィンランド 豊かさのメソッド」堀内都喜子著 p73 p76

(3)「読書力」齋藤孝著 p41 p44

(4)週間ダイヤモンド特集「北欧に学べ なぜ彼らは世界一が取れるのか」Kindle p52 p54

(5)「回想の明治維新」-ロシア人革命家の手記 レフ・イリリッチ・メーチニコフ著 p218

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ヘヤジン編集部
部屋探しが3度のご飯より好き!部屋探しによって人生をより良く変える「ヘヤ・ハッキング」の提唱者。『ヘヤじい』の愛称でもお馴染みのヘヤジン編集部員。
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