​シドニーで、フリーランス美容師として働く。​ポートフォリオを持って 「じゃ、ここから行ってみるか」、と飛び込んだ1件目で「採用」。

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今回は、オーストラリアのシドニーに永住の美容師、Lynn(リン)悦子さんに、シドニーでフリーランス美容師として働くことについて、お話をうかがいます。

まず、シドニーに移住したきっかけは何だったんですか?

もともと日本で結婚していた夫がオーストラリア人でして、そろそろオーストラリアに戻りたいということになったんです。移住する前、2002年の12月31日までは、大阪の心斎橋にある「Hair & Make Shower」というサロンで店長として働いていました。

シドニーではどうやって働き始めたのですか?

私の場合、ビザは問題なかったので、日本の美容師免許を翻訳して政府に届出をして働ける準備をしました。まったく知り合いがいなかったので、どうしようかな~、と思ったのですが、技術には自信があったので、ポートフォリオを持って自分が「いいな」と思ったサロンを1件1件訪ねることにしました。ニュートラルベイという地区で、「じゃ、ここから行ってみるか」、と飛び込んだ1件目で「OK!」と言われてしまったので、そこでフリーランスとして働き始めました。

↑英語で説明しなくても、ポートフォリオが自ら語る

シドニーでは美容師のサロン内での働き方が日本とは違うということですよね?

日本では、サロンの社員として勤めていたので、「守られている」という感じがありましたね。でも、シドニーでは、個人事業主としてサロンに家賃を払ってセット面を借りて働いています。もちろん、保険も税金も自分で管理しています。シドニーでは、美容師はフリーランスでの働くのが一般的ですね。

フリーランス美容師の場合、そのサロンの中に、自分のミニミニ美容室があるという感じ?

そうそう!大きな機材以外は自分でそろえて、予約の受付から、シャンプーから何から全部自分でやらないといけないのですが、その分、働くペースも自分次第で、そこにいたもう一人のフランス人のフリーランス美容師は、すっごく上手なんだけど、2ヶ月くらい旅に出て帰ってこないことがよくあり・・・。その人のカットの料金は100ドルくらいですごく高かったのを覚えています。

↑フリーランスで働く人は、旅に出るのも仕事に行くのもスタンスは同じ。(- Mathias Roiguez -

フリーランスで、知り合いがゼロの状態からのスタートというのは厳しそうですが、どうやって顧客を開拓したのですか?

シドニーに来てすぐのころ、語学学校にも通ったので、そこで知り合った人から広まって行きました。ありがたいことに、その人の会社の人とか、口コミで。あとは、サロンのオーナーのお客さんが、自分のことを指して「次はあの子にやってもらいたい」と言えば、快く「悦子はね、日本ではこんなすごいキャリアがあってね、・・・」と紹介してくれました。でも、そういうとき、オーナーは私が通常もらう料金よりも高い金額で案内していて、オーナーに渡る仲介料もちゃっかり上乗せされていましたが。

そこはかなりファンキーなサロンで、金曜日の午後からは顧客に無料でビールをサービスしていました。それも1本ではなく何本も!種類も3種類くらいあったし、ワインもあったし。かかっている音楽も大音量で、「ここはクラブか?」と言う感じで。

その頃のお客さんは日本人が多かったので、それを楽しむお客さんもいれば、そうでないお客さんもいて。そういうお客さんは、サロンが定休日でほかの美容師が来ない日曜日とかに、まとめて予約を入れていました。

↑シドニーでは、金曜日のビールは、社交の鉄則 (Jason Armtrong

オーナーさんも悦子さんも柔軟ですね!でも、大変だったことはありますか?

どんどんお客さんが増えていって、1人で1日に10人以上とか施術して、目に見えて忙しくなったころ、それを見ていたオーナーが、私の家賃をいきなり引き上げたんです。周りにも「それはおかしい」と言われ、すでにお客さんの予約も入っているのに、急遽、別のサロンを探すことになりました。最初に自分がきちんと契約を交わさなかったので仕方なかったし。お客さんの層も、そのサロンのカラーに合わなくなっていたっていうのもあって。

オーナーはビールをサービスしすぎて資金繰りが苦しくなったのでしょう。悦子さんは、そのときも飛び込みでサロン探しをしたのですか?

そのときは、モスマンという高級住宅街でで探し始めて、時間がなかったので、知り合いが紹介してくれたサロンで面貸しをしてもらうことに決めました。そこはオーナーがドイツ人で、それはもうきっちりしたサロンだったので、それはそれで「店の感じが私とは合わないかな?」と思いながらも続けていたのですが、私が産休に入っている間に、オーナーがビジネスを売ってしまって。そのことを知らされたのは、産休から復帰する1週間前でした。

その場所には残れたのですが、新しいオーナーは美容師ではなかったんですよね。オーナーが雇ったスタイリストも次から次へと入っては辞めていきました。困ったオーナーはフリーランスで契約しているのに、私の名前で予約を入れるようになりました。「そんなの言われても無理!」と言っても「子供を預ければ何とかなるでしょ?」とか言われて。赤ちゃんを抱えていたので、勝手に自分の予約を入れられても困るし、別のサロンを探すことにしました。ベビーカーをひきながら、探して。でもなかなか見つからなかったんです。

それで、その地区の隣のクレモーンという地区で探し始めたら、1件目で「いいわよ」と言ってもらえました。そこのオーナーのJulieはイタリア系オーストラリア人で、すごく明るくていい人で、「2週間後に旅行で留守にするけど、大丈夫?」と言って、鍵まで渡してくれて。「え?いきなりそんな信頼して大丈夫?」と、こっちが心配になりました。

↑オーストラリアでは、相手の事情よりも自分の事情を優先(DarrelBirett

ビジネスを売ったり、オーナーによってぜんぜんやり方が違ったり、こっちではよくありますよね。フリーランスで地元のサロンに入るのにはそういう大変さもあるせいか、日本から美容師さんがワーキングホリデーでなどでやって来ると、日本人経営のサロンに入ることがけっこうありますよね。悦子さんは、どう思いますか?

うーん。その人の求めること次第というか。どういう目的で海外に出ようと思ったかによるんじゃないかな。

日本で働きすぎて心の休息を求めているなら、まったく違う仕事を経験してみてもいいんじゃないかと思います。でも、シドニーで美容師としての技術を学びたいと言う人は、ローカルのサロンに飛び込んで、見習い並みの安い給料でやってみるのもいいと思います。こっちの人はブローが抜群にうまい!手で乾かす日本とは違います。カラーもバリエーションが多くて、最近はBalayage(バリヤージュ)やOmbre(オンブレ)とか、すごくいいですよ。

ローカルのサロンでは、顧客との人間関係も日本のサロンとは全然違うでしょうね。

そうですね。日本では、スタイリスト同士に、なんというか、「見えない壁」のようなものがあって、自分の担当しているお客さんが別のスタイリストの仕上がりを褒めたりすることはないですよね?でも、こっちでは、私がやっていることを、隣で別のスタイリストにやってもらっているお客さんが見ていて、「それ、すごくいい!」とか、褒めてくれます。それは日本では、自分を担当しているスタイリストの前では遠慮すべきことだけれど、こっちでは、全然気にしません。私も別の美容師がやっているスタイルをその場で褒めるようになりました。素直になったな、と思います。フリーランスだと、スタイリスト同士が、お互いの売り上げや顧客数に対して日本のように意識する必要はないから、心のゆとりも違うのかもしれないですね。

↑フリーランス美容師が働くサロンの中には、「見えない壁」はない(Jdie Wilson

そうそう、褒めるのとか、こっちの人たちは直球ですよね。お客さんとのやり取りで、英語はあまり関係ないですか?

なんとかなるものです。雑誌をめくったり、iPadを使って、「これのことかな?」と思うスタイルを探して、「これ?」「こっち?」とから聞きながら、「これか~!」と答えにたどり着くことはよくあります。スタイルの名称も、日本では英語だと思って使っていたのに、実際には、言い方が全然違ったりするので。

悦子さんはお子さんも大きくなってきて、新しくヘッドスパも導入したりしていますが、これからどのように働いていきたいと思っていますか?

フリーランスで働くのは、何から何まですべて自分でやるので、体力勝負です。去年予約を入れすぎて体調を崩して大変だったんです。やっぱり自分のキャパがあるんですよね。

家族や自分の健康のことを考えて、週4日働くペースを守りたいです。私は高卒でサロンに見習いで入って、夜間の美容学校に通って美容師になったので、高校を卒業してからほぼ毎日働きづめだったし、こっちに来たはじめの頃は時間がありすぎてどうしようかと困ったくらいだったんですけどね。

今は、働くと決めた曜日以外は、予約を入れないようにしています。体を壊してサロンに出れなかったり、無理してやってもいい仕事はできないし、お客さんに申し訳ないですから。

お客さんが、曜日や時間を私に合わせてくださって、とてもありがたいな、と思います。

こっちでは「美=健康」ですしね。でも、フリーランスだからこそ、それってすごく難しいですよね。

ずっとそうしなきゃと思っていたけれど、実際に断れるようになるまでに、10年かかりました。


〔インタビュー後の感想〕

日本でも、ここ数年で、セット面をレンタルするフリーランス美容師が都心を中心に増えていますが、美容師の気持ちとしては、まだまだ「独立」を求めていることが多く、そういった目標が「壁」となっていることも多いのではないでしょうか。

オーストラリアでは「コンセプトサロン」でない限り、フリーランス美容師を入れているサロンが多く、美容師それぞれがいいと考える働き方をすることが当然のような土壌があります。フリーランス美容師にとって、自分に合ったサロンは、「コワーキングスペース」に似ていて、完全にリモートで働かなくていいという安心感もあり、お客さんが求めるものが自分になければ、隣の人に頼むことができ、ひとりで全部やらなくてもいい、という心地よさをも与えてくれるもののようです。

アメリカでは、2020年までにフリーランスで働く人は50%に達するだろうといわれています。自分の仕事に責任を持つことや、「遠慮」とか「お客様は神様」とか、自分よりも相手を優先する日本の文化も素晴らしいですが、悦子さんの出会ってきた数々のサロンオーナーや美容師、そして顧客たちのように、日本でも個々人が、人を受け入れたり、頼ったりしながら、自分の意思を形にしようとする行動力を持たなければ、フリーランスが活躍する社会はやってこないのかもしれません。

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関 希実子 (Leading&Co.)
「No」と言えない日本人代表。多民族・多文化都市シドニーに移住したことをきっかけに、イージーな価値観を勉強中。
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