ハリー・ポッターと非合理「なぜ廃墟や城がこれほどまで人気なのか。」

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(Alex Abian)

現在、ヨーロッパでは、ハリー・ポッターのファンが魔法学校を開催するためにポーランドの城を共同で購入しようとするなど、古城が多くの人々の注目を集めています。

日本でも「廃墟ブーム」が起きつつあるように、現代人は朽ち果てた過去の遺産に関心を抱くようになっているようですが、われわれが日常的に目にする便利さへの合理性を徹底的に追求した建物にはない、非日常、非合理ゆえの魅力が、古城や廃墟には確かにあるようです。

世界的なロックバンド、ニルヴァーナのボーカルであり、うつ病によりショットガンで壮絶な自殺を遂げたカート・コバーンが生前、「スコットランドの城を購入したい」と語っていたように、あまりにも合理化した現代文明では満たされないような心の癒しを、人々は古い建造物に求めているのかもしれません。

↑現代社会の疲れが人々を廃墟へいざなう (Lou Gabian)

「廃墟の歩き方」などの廃墟についての著書を書いている廃墟愛好家の栗原亨さんが、廃墟の良さは独特な美しさであり、特に大好きなのが昭和30~40年位に建てられた木造物件で、家具や電化製品、生活用品等から醸し出される当時の生活感を感じて泣きそうな気分になると述べているように、廃墟にはこころを癒す効果があるのかもしれません。

また、栗原さんが元々心霊スポット巡りから廃墟の美しさに感動したように、心霊的な非合理な存在も廃墟や古城とは密接な関係にあるようで、イギリスでは幽霊が出る物件は不動産的な付加価値がつくと言いますが、その存在は廃墟や古城の魅力をさらに強めるものでもあるようです。

↑幽霊が出る不動産は付加価値が付く (Klearchos Kapoutsis)

日本では、時代とともに「非合理的なもの」に対する意識は急速に変わりつつあり、1991年のNHKの調査では来世を信じる人は12%にとどまっていましたが、1999年には60%にまで跳ね上がり、さらに霊魂の存在を信じる人も60%にのぼるとされていて、若者や海外の人々も同様の傾向でさらに高くなっているようです。

この1999年という時代は、バブル終焉後の失われた10年に当てはまり、格差社会が広がって社会からの重圧が増え、自殺者が一気に3万人を突破した年でもあるので、人々が日々の暮らしに幻滅し、非合理的なものへ癒しを求めていったのも当然かもしれません。

↑合理的なものへの幻滅が廃墟や心霊ブームを生んだのかもしれない(Jon Feinstein)

宗教学者の大道晴香は、1950年代の日本人は合理主義を信頼し、恐山のイタコを批判的な目でみていたといいますが、70年代に入り、石油危機や近代化の停滞などから、合理主義への不信感がつのると同時に、超能力者ユリ・ゲラーや映画「エクソシスト」に代表されるオカルト・ブームが始まると、 もはや日本人はイタコを非合理的な存在として排除することはせず、逆に説明のつかない「霊能者」として、その非合理性を受け入れていくようになったといいます。

社会学者西山茂は、このような合理性への不信から、再び非合理を肯定的に受容していく過程を「非合理の復権」と呼びましたが、現代の非合理的な廃墟や古城、幽霊といったものを求める動きはわたしたちの合理性への失望ゆえかもしれません。

↑人々は非合理を逆に受け入れ、求めるようになっていった (Paval Hadzinski)

1990年にWHO(世界保健機関)が、余命いくばくもない患者に対して、ひたすら科学的な手法で命を先延ばしにするだけではなく、日々の生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)を高めるためにはスピリチュアルな面も重要であると発表したように、非合理性が人々の心の健康に与える重要性が世界的に認められ始めていることが、ここからみてとれます。

ここでいうスピリチュアルとは、必ずしも宗教的ということだけを指しているのではなく、自己の受容や、価値の超越、人々との関係性など様々な視点が含まれているようです。

社会学者メイヨーの行ったホーソーン実験によれば、工場でひらすら同じことを繰り返すライン作業のような徹底的に合理性を追求した労働の在り方が生産性を上げるのではなく、数字には直接表れないような職場での私的で、理論を意識しない人間関係こそが、実は人々のやる気に直結していて、生産性を大きく左右するという結果にも通ずるところがあるようです。

↑非合理性は幸福だけではなく、生産性をも上げていく (Hussain Isa Alderazi)

映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー2」では、2015年10月21日にタイムスリップし、空飛ぶ車やホバーボードといった科学的に輝かしい未来が描かれていましたが、現実ではこのような未来は訪れず、経済的にも合理性を追求しすぎた結果、過度な競争社会になり、格差は広がるばかりというありさまです。

WHOが示したように人々の幸福には、不思議なものを信じたり追及したりする姿勢が重要であるからこそ、廃墟や古城、幽霊がブームになり、非合理的なものへ癒しを求めるようになっていったのでしょう。

かつて、幽霊はわたしたちを脅かした存在だったかもしれませんが、現代社会においてはもはやその存在がわたしたちを幸福にしてくれるようになってきているのかもしれません。

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ヘヤジン編集部
部屋探しが3度のご飯より好き!部屋探しによって人生をより良く変える「ヘヤ・ハッキング」の提唱者。『ヘヤじい』の愛称でもお馴染みのヘヤジン編集部員。
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