​スターバックスはイタリアに一軒も存在しない

  • LINEでシェア

(Federico)

24時間営業のコンビニは当たり前のことですが、最近では深夜2時ぐらいまで開いているスーパーマーケットも当たり前になり、日本よりも便利な国は世界中探してもないと言われるほどになりました。

一方、残業なんて持ってのほか、店の営業は基本的に19時までで、未だに市場や個人商店が活気づく中で暮らすヨーロッパの人々に、「どうして夜中に、買い物をしなければならないんだい?」と聞かれた時、彼らを納得させられる回答を用意できる日本人は一体どれくらいいるでしょうか。

↑最近では深夜2時まで営業しているスーパーも珍しくなくなった (The 2th RoOm)

すでに400年以上も前からカフェが存在していたイタリアでは、出勤前や仕事帰りの一杯、さらに夜には様々なお酒が低価格で飲め、ちょっとした食品まで購入できる「バール」と呼ばれる店が全国に15万店以上あり、イタリア国民の約98%がこのバールを利用していると言われています。

さらにサービスエリアや駅のチェーン店を除くと、ほとんどのバールが個人経営で、グローバルの競争が激しくなり、個人経営の店がどんどん減ってきているようなイメージがありますが、むしろイタリアで苦戦しているのは大手チェーンの方で、個人経営の地元文化は、ブームや時代の流れに振り回されることなく、何世代もの間、イタリア国民から根強い指示を得ているようです。

↑根強い地元文化は時代の流れに振り回されることはない (Graeme Maclean)

スターバックスは、もともとイタリアのカフェ文化にインスパイアされた創業者のハワード・シュルツ氏が現在のスタイルを生み出し、2000年初頭からフランス、スペイン、ドイツ、そして北欧諸国といったヨーロッパの国々にも次々と出し続け、日本では既に1,000店舗を超えていますが、イタリアでは未だに1店舗もスターバックスは存在せず、創業者のシュルツ氏にとってイタリアは「未だに登れない山」とも言われています。

↑イタリアにスターバックスは存在しない (Eric Montfort)

濃厚で少量のエスプレッソを飲むのが好まれるイタリアでは、エスプレッソマシーンが導入されても、天候や豆の選出、焙煎、作る人の腕次第でバールによって全く味が異なるため、自分だけのお気に入りの一軒があるのが一般的です。

アルコールも入れると200通りのカスタマイズが可能であるとされるバールでは、客は特別の一杯を求めて、時には無茶な注文もしますが、「マニュアルにないのでできません」などとは決して言わず、求められた味を作り出すことにバリスタ達は誇りを持っています。

求められた味を作ることに喜びを感じるバリスタ (Jesús Gorriti)

常連の顔で注文が分かり、常に地元客とのおしゃべりが絶えないバールは、世代や性別問わず、生活に欠かせない場所であり、イタリアでは全国どこへ行ってもマニュアル通りの均一メニューを眺めながら、パソコンとにらめっこした無口な客であふれるチェーン店のスタイルは、なかなか受け入れられないようです。

↑無口な客が集まるチェーン・スタイルはイタリアでは受け入れられない (Jay)

オーストラリアでは第二次大戦後、イタリア人の移民がカフェ文化を築き上げ、国内に6500軒あるカフェの95%は、個人経営で、家庭でもドリップ式のコーヒーメーカーはほとんど見られません。

2014年、業績不振のため、スターバックスがオーストラリアから撤退することを発表しましたが、シドニー大学経営略専門家であり教授のニック・ウェールズ氏は、この出来事から学ぶことは多いとして次のように述べています。

「残念ながらスターバックスはオーストラリアのカフェ文化を本当に理解することができなかったんだよ。しかも彼らも元々はドリップコーヒーだけだったアメリカのカフェ文化との差異化を目指していたのに、巨大な企業マシーンのいい例になってしまった。」

↑オーストラリアでは個人経営が多く、スターバックスなどチェーンが入る隙間がほとんどない (worldoflard)

イタリアはその土地の伝統的な食文化や食材を見直す運動、スローフードの発祥地でもあり、バールで出される食品は、地元産に徹底的にこだわっている店主は次のように述べます。

「イタリアにも外資系の大きいスーパーは進出してきたけど、個人の店は質にこだわらなければダメなんだ。客は普段食べているものがおいしくなければさっさと鞍替えしていまう。」

世界全体から見れば、急激に変化するグローバル社会に取り残されているイメージが強いイタリアですが、広告やトレンドに惑わされず、断固として伝統を守ってきた地域の消費者の舌には、五感を通じて培った「本当の味」が染み付いていることが、スターバックスを含めた大手チェーンが市場を獲得できない大きな要因なのかもしれません。

↑効率を求める日本とあくまで質にこだわるイタリア (Frank Kovalchek)

イタリア人の意味する"la bella vita (beautiful life)"は、モノで溢れた贅沢な人生ではなく、家族や友人とのリラックスした生活をあらわし、お気に入りのバールで他愛のないおしゃべりをしながら自分だけの一杯を楽しむことや、誰かとの会話を楽しみながらじっくり時間をかけて質の良い食事をすることは、その代表格とも言えます。

時間に追われ遅くまで働き、どこにいても同じスタイルのチェーン店の味に安心することを選んでしまった私たちが、美しい人生の本質さえも見過ごしてしまわないためには、時代の流れに飲まれることなく、歴史ある素晴らしい自国文化をじっくりと見つめなおしてみることが、これからのビジネスにおいても重要になってくるかもしれません。

※参考図書 『バール、コーヒー、イタリア人』 島村奈津

  • LINEでシェア
Pua Lililehua (Leading&Co.)
ハワイの諺、Iku ka makemake e hele mai, hele no meka malo'el o'e ”行きたければ自信をもって行きなさい”の精神と徹底したリサーチで、2年先を行くライターを目指します。
NEXT STORY
​スウェーデンのマルメ、環境汚染都市から、数十年で環境先進国へ
都市 2015.7.21 ​スウェーデンのマルメ、環境汚染都市から、数十年で環境先進国へ 環境問題に敏感な北欧の国々では、エネルギー問題を「見える化」し、その土地の特色を生かして、市民一人ひとりが本気で、環境問題に取り組む文化が…