ピカソ「描くのにたった30秒しかかからない絵も100万円。だってそれは40年と30秒をかけて描いた絵ですから。」

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AK Rokefeller

ある会員制の婚活パーティの男性の参加条件には、年収1,000万円以上であることや、国家公務員や大手企業に勤務していることが条件として設けられていて、また、転職を目指す人の動機として、年収アップや待遇の改善は、いつの時代も重要なポイントで、転職支援を行う企業の広告には、「年収1,000万円以上のハイクラス転職!」などのキャッチコピーが踊っています。

私たちは、あらゆるものを数字という共通の尺度で測ることができるお金の便利な部分に慣れ過ぎてしまったあまり、物の良し悪しや人の価値さえも、金額で評価するようになってしまいました。

実際、その人や物が、どのように社会に貢献し、どのような背景や物語を持っているかを深く読み解こうとはしなくなりましたが、たとえば、博打で手に入った1億円と、何十年もの研鑽の末に手に入れた1億円では、その価値が違うのは当たり前のことです。

↑お金で物事を判断するのが当たり前になってしまった。(Frts Ahlefeldt-Laurvig)

山口揚平氏は、著書「なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?」の中で、ピカソは、人が作品という「モノ」にお金を支払うのではなく、「物語」を買うということを知っていたと述べており、ある店でピカソがウェイターにスケッチを求められたときのエピソードを次のように紹介しています。

「このナプキンに何か絵を描いてもらえませんか?もちろん、お礼はしますと。 ピカソは、これに答え、30秒ほどで、小さな絵を描いた。 そして、にっこりと笑って「料金は、100万円になります」と言った。

ウェイターは驚いて、「わずか30秒で描かれた絵が100万円ですか!?」と聞いた。それに対して、ピカソはこう答えたという。

「いいえ、この絵は30秒で描かれたものではありません。40年と30秒かけて描いたものです。」(1)

↑「これは40年と30秒をかけて描いたものです。」(Randen Pederon)

同じ1億円でも、画家が一生をかけてその魂を描ききった傑作についた価格と、株式公開によって1日で増えた時価総額とでは、背景にある意味や物語、言語化できない価値がまるで違うにも関わらず、それらを値づけしたとき、絵画と株式は同じ土俵で評価され、比較できるようになり、「それは時に、お金による暴行であり、自然や人間がつくり上げた価値を冒涜する行為にみえることもある。」と、山口氏は言います。

↑時にお金は、世の中の価値を著しく低く見積もる。(Alays Shooting)

値段がついているがために、そのものが無味に感じられることはよくありますが、昨年の夏、パリにある5つのホテルは、「金額」をデフォルトで設定しないという斬新なキャンペーンを実施したことで話題になりました。

それは、通常は約2万円する宿泊料を、客が自由に値段を決め、支払うというもので、「Pay What You Want(払いたい分だけ払う)」、通称PWYWと呼ばれるこのキャンペーンは、開始直後に予約でいっぱいになり、ホテル設立以来の成功をおさめたそうです。

↑一度価格という概念を頭の中から消す。(Terry Blachard)

PWYWの導入例はまだ珍しいものの、特に欧米のレストランで導入される例が多く、PWYWに詳しいトム・モークス氏によれば、通常の価格よりも20~60%高い利益を得ることができると言います

PWYWの重要な点は、企業が通常よりも高い利益を得ることができることもさることながら、客自身がその商品やサービスを真剣に受け止め、背景にある物語を読み取り、適正な価格を自らの経験に基づいて判断しようと必死に考える機会が与えられることなのかもしれません。

↑値札の数字に従うことを止め、その商品に含まれる背景や物語を読み取ることが必要。(vasslis galopoulos)

ストーリーが数字で計れないことは、個々人の思い出の価値がその人にしかわからないのと同じようなもので、本来支払う対象にはストーリーも含まれることを忘れてはいけません。

表参道ヒルズの一角にある「パス・ザ・バトン」というリサイクルショップでは、一般のリサイクルショップと異なり、ひとつひとつの商品に、出品者の名前、出品物の経緯などが書かれています。

この取り組みは匿名性を大事にしてきた従来のリサイクルショップの真逆を行くものですが、新たなオーナーとなる購入者は、出所のわからないものを買うよりも、出品物が持つ歴史や意味を理解でき、出品者の前向きな「思い」を引き継ぐことができるとして好評だそうです。

↑全てのものにはストーリーがあり、その価値を読み取ってはじめて、対価を支払う意味がある。(Joyce Kas)

山口氏が言うように、物が開発されたり、人が歩んできた歴史を読み取ることをしないのは、SNSで数字に頼ることにも表れていて、Twitterのフォロワー数や、facebookの友達の数で人を判断し、「成功者だ」、「負け犬だ」と判断することはやめなければ、本当に価値のある関係をつくることさえできなくなってしまいます。

全てが数字でのみ判断される無機化した現代だからこそ、私たちは意識的に、物事の文脈を読み取る目を養うことに力を注いでいかなければなりません。さもなければ、私たちはいつまでたっても、企業のマーケティングによって生み出された、中身のない数字に一喜一憂させられ、踊らされ続けるのではないでしょうか。

1. (なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか? これからを幸せに生き抜くための新・資本論/山口揚平)Kindle 629

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関 希実子 (Leading&Co.)
「No」と言えない日本人代表。多民族・多文化都市シドニーに移住したことをきっかけに、イージーな価値観を勉強中。
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